高森藍子「離れていたって、届くように」

元スレ: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1381152359/ 


1 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:25:59.63 ID:wXzZV/Aw0 
モバマスSS、地の文あり、元ネタあり 

高森藍子「茜色の夕日」 
から設定を引き継いでいます 


1 2

2 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:27:50.94 ID:wXzZV/Aw0 

フジファブリック - ECHO 

http://youtu.be/OtN-IHIRuL4 


3 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:31:37.43 ID:wXzZV/Aw0 

―――――――――――――――――――― 


To: ――プロデューサー 
Sub: お元気ですか? 



お久しぶりです。高森藍子です。 


あれからもう一ヶ月ですが、お元気ですか? 




私はCGプロで、レッスンやお仕事を頑張っています。 


同じ事務所のお友達もできました。楽しくやっていますよ? 


私を担当してくれているプロデューサーさんは、少し無口ですが頼りになる人です。 


……でも、一番のプロデューサーは、あなたですけどね。えへへ。 




私は、こっちの事務所で頑張っています。 


たまにはあなたからも連絡くださいね? 


では、行ってきます! 



―――――――――――――――――――― 


4 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:34:21.99 ID:wXzZV/Aw0 

私がアイドルとして歩き始めてから、半年と一ヶ月ほど経ちます。 


彼にスカウトされたあの日から、色々なことがたくさん起こりました。 


いきなり事務所に連れて行かれて、彼の必死の説得を受けて。 


少しだけやってみようかなと思ってアイドルを始めたあの日。 


はじめは、ずっとレッスンばかりでした。 


どんなに頑張っても、私はもともとただの女の子で、特別運動ができるわけでもありませんでしたから。 


何度もレッスンを重ねて、ライブができるほどに上達した私。 


ついに、初のライブ対決を迎えて。 


いともたやすく出鼻をくじかれて、彼の胸の中で大泣きしたあの日。 


5 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:37:10.68 ID:wXzZV/Aw0 

いまでも、そのすべてが鮮明に思い出せます。 


その日から私は、ずっと、ずっとレッスンに打ち込んでいました。 


最初はあまり、競うことは好きではありませんでしたけれど。 


初めてのライブで、初めて負けて。 


気付きました。 


戦ってくれた相手の方が、もっと、見てくれていたお客さんを楽しませていたことに。 


私も、もっとみんなを楽しませられるように。 


みんなの笑顔を見たくて。 


応援してくれている人達のために、私はずっとレッスンを続けました。 


6 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:39:15.66 ID:wXzZV/Aw0 

そして、レッスンやお仕事をいっぱいこなして、一歩ずつだけど、しっかりと歩き出してから。 


もう一度、ライブ対決のお仕事。 


今度こそ負けません。 


私の声を、私の歌を、私の想いを。 


みんなのために、私は必死に歌いました。 




――そうして、また一歩、私は前へと踏み出せました。 


結果を聞いた瞬間に、手を取り合って、お互いに確信して。 


まるで自分がライブで勝ったみたいに喜んでくれていた、彼の笑顔。 


嬉しさのあまりに泣いてしまっていた私の代わりに、笑ってくれているみたいでした。 


7 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:43:00.60 ID:wXzZV/Aw0 

―――――――――――――――――――― 


To: ――プロデューサー 
Sub: 今日はライブでした! 



こんにちは。高森藍子です。 


もっとメールを送ろうと思ってたんですが……ごめんなさい。 


忙しくてもちゃんとメールを送れるよう、頑張りますね。 




今日は、移籍してからの初めてのライブでした。 


それも、ユニットを組んでのライブだったんです! 


同い年の事務所のお友達と、三人で初めてステージの上に立ちました。 


結果は……じつは、負けちゃいましたけどね。 




それでも、いろんなことがわかりました。 


だから、今回は負けちゃったけどそれでいいんだって思います。 


でも次は絶対に負けません! 


ですから……応援、しててくださいね。 



―――――――――――――――――――― 


8 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:46:24.70 ID:wXzZV/Aw0 

いつから、でしょうか。 


私は気付いてしまいました。 


私の心のなかで、プロデューサーさんの存在が日に日に大きくなっていたことに。 


恋をするって、こういうことなのかなって。 


でも、なんだかおかしいですよね。 


私はアイドル。彼はプロデューサー。 


私の声は、私の笑顔は、私の想いは、常にファンのみんなのもの。 


それを彼だけに向けてはいけないって、分かっていました。 


だから、ずっと、ずっと我慢して今まで頑張ってきたんです。 




それから、でしょうか。 


アイドルとして、私が伸び悩んでいったのは。 


9 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:49:13.59 ID:wXzZV/Aw0 

彼の存在は大きすぎて、忘れることなんてできなくて。 


どうしたらいいのかわからないまま、心の奥底に押し込んで。 


ずっとレッスンやお仕事に励んでいましたが……。 


やっぱり、大きな壁が目の前にあって。 


それを乗り越えることができなくて。 




私の選択肢は、ふたつ。 


打ち明けるか、諦めるか。 


そのどちらも取れないままに、私はずっと悩んだままでいました。 




だから、中々芽が出なくて……私は、移籍の対象に選ばれたのかもしれません。 


10 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:54:12.00 ID:wXzZV/Aw0 

そうして、あと数週間後には移籍だと告げられて。 


私は、うまく平静を保とうとしました。 


いつもどおりレッスンやお仕事をして。 


いつもどおりライブをして。 


それでも、今となって思い返すと、いつもどおりになんてできてはいませんでした。 


小さなミスがいくつも続き、レッスンが中断することもよくありました。 


移籍のショックと……この事務所にはもういられないとあってから、私は少しだけ、頭のネジが外れてしまったようで。 


私が私でないような気さえ感じていました。 




……でも、そんなことがなかったら。 


勇気を振り絞って、彼の腕に抱きついて。 


さらに彼に思いを伝えるだなんて。 


やっぱり、あの時の私はどうかしていたんだなって思います。 


今となっては、それでよかったとも思いますけどね。えへへ。 



11 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:55:09.86 ID:wXzZV/Aw0 

こうして、色々なことが沢山起こって、私一人ではどうしようもないことばかりで。 


けれどもいつものように時間は進み、地球は回っているんだな、と思うと。 


これも、きっとなるべくしてなったことなのかな。 


そんな風に思います。 


12 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 22:57:57.08 ID:wXzZV/Aw0 

―――――――――――――――――――― 


To: ――プロデューサー 
Sub: 調子はどうですか? 



おはようございます。高森藍子です。 


季節が秋へと変わってきましたが、調子はどうですか? 


私は……ぼちぼちです。 


それでも昔みたいに少しずつ、アイドルらしさを取り戻してきていますよ。 


ちゃんと、大事なことが何かを感じていますから。 


事務所の皆さんとはもうお友達ですし、私は大丈夫です。 




そうそう、少し前にまた、ライブをしました。 


今度はちゃんと勝てましたよ! 


三人で話し合って、目標を考えて……そうしたら、大事なことに気付きました。 


私達が楽しくライブをやらないと、お客さんには気付かれてしまうんだって。 




だから、高森藍子、精一杯楽しく頑張ります! 


というわけで……あなたのお返事、待ってます。 


あなたの声やあなたの言葉は、私を笑顔にしてくれるとっておきの魔法ですから。 



―――――――――――――――――――― 


13 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:02:35.44 ID:wXzZV/Aw0 

「……はぁ……」 


スマートフォンに向かってため息をつき、鞄の中へとしまいます。 


そうして、事務所の予定表を確認。 


今日はレッスンが早めに終わるみたいです。 




レッスンに向かう準備をしていると、 


「あら、どうしたんですか藍子ちゃん?」 


とちひろさんに声をかけられます。 


――なんだか新鮮だなぁ。 


前の事務所で私を気にかけてくれていたのは、だいたい彼だけだったから。 


ちひろさんは事務員だけど、私達のことをよく見ていて……時々、お話を聞いてもらったりします。 


「なんだか、気がかりなことでもあるのかなーって」 


ちひろさんは私達の些細な変化にも気付く不思議な人です。 


心が読めるんですか、と以前冗談半分に聞いたけれど。 


『みんなのことをちゃんと見ているだけですよ。うちのプロデューサーさん達はみんな、頭の中がお仕事のことばっかりですから』 


としか教えてくれませんでした。 


14 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:04:49.64 ID:wXzZV/Aw0 

「気がかりなこと、ですか」 


「ええ。気がかりなこと、です」 


にこりと笑うちひろさん。この人の笑顔が向けられると、不思議とすべて話してしまいそう。 


ふふっ、これ以上は野暮ったいですね、とちひろさんは詮索をやめてくれました。 


確かにこれ以上は、ぼろが出てしまいそうでした。 


やっぱり、ちひろさんは知っているんでしょうか。 


私と、彼とのことを。 




あの日、またいつかと誓ってから。 


心のなかに浮かぶのは、彼に会いたいという気持ち。 


止めどなく流れる清流のように限りなく湧き上がって、なんだか苦しい思いになります。 


清流は、いつしか色々なものを削りとって、巻き込んで、濁流に。 


嫌なこと、失敗したこと、会えない思いなんかが合わさって、心のなかで洪水を起こします。 


もう、何もかも全てが胸の奥に溢れてくるような気持ちを、止められなくて。 


「……藍子ちゃん?大丈夫ですか?」 


いえ、大丈夫です、それでは行ってきます、と口早にまくし立てて、事務所を出ます。 


ちひろさんには、見えちゃったかな。 


すっと、溢れた思いを拭きとって、レッスンスタジオへと向かいます。 


15 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:07:33.49 ID:wXzZV/Aw0 

「――今日は、ここまでです。お疲れ様」 


ダンスと歌を取り入れた、ライブ用のレッスン。 


いつの間にか、必死になって歌っていました。 


「……藍子ちゃん、今日はどうしたの?何かあった?」 


トレーナーさんも、何かに気付いたのでしょう。 


――あんなめちゃくちゃなパフォーマンス、ライブ当日に見せるわけにはいかないもんなぁ。 


「今日の藍子ちゃん……なんだか格好良いいなって思いましたよ」 


えっ。 


本当ですか? 


「はい。何かを伝えようって、心に響くような感じがしました。その代わり、歌もダンスも失敗が目立ってましたけど」 


……ですよね。 


でも、その通り。 


「ちょっとだけ……私、変わってみようって思ったんです」 


伝えてみようって思ったんです。 



16 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:09:53.20 ID:wXzZV/Aw0 






――離れていたって、届くように。 






17 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:11:32.45 ID:wXzZV/Aw0 

―――――――――――――――――――― 


To: ――プロデューサー 
Sub: 私の想い、届いていますか? 



こんばんは。高森藍子です。 


今日は、トレーナーさんにちょっとだけ褒められました。 


といっても、レッスンが上手く行ったとかじゃないんですけどね。 




トレーナーさんからは、必死で、一生懸命だけど……心に響いた、って言ってもらえました。 


その代わり歌やダンスは失敗ばっかりで、後から少し怒られちゃいましたけど。 


なんだか私じゃないみたいですけど……これでも、成長してるんですよ。 




離れていたって、届くように。 


私の出せるありったけの想いを、歌にのせて。 


あなたに、なんて。 


えへへ。 


18 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:14:17.82 ID:wXzZV/Aw0 

こうして、少しずつかもしれませんが。 


私は成長していくのかなって。 


どこまで行っても続いていくように、一歩ずつ、一歩ずつ。 


私は歩いています。 


時には立ち止まったり、考えこんだりすることもあります。 


けれども、答えはどこにもありません。 




それでもいいんです。 


そうやって、積み重ねてきたものが。 


そうやって、立ち止まりながらも一歩ずつ歩いてきたものが。 




――私になるんですから。 


19 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:16:20.70 ID:wXzZV/Aw0 

―――――――――――――――――――― 


To: ――プロデューサー 
Sub: これからライブです! 



お疲れ様です。高森藍子です。 




今日は、大事な大事な単独ライブの日です。 




だから……祈っていてください! 




私がちゃんと頑張ってるってこと、証明してみせますから! 



―――――――――――――――――――― 


20 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:18:36.20 ID:wXzZV/Aw0 

「……うん」 


スマートフォンをそっと、鞄に戻します。 


何度も何度も、繰り返して。 


それでも、私達は離れ離れでも、歩き出して。 




あなたの一言で、私は笑顔になれる。 


私は、みんなに笑顔を伝えられる。 


みんなを笑顔にできる。 




でも……今はあなたの声は、聞こえません。 


あなたはここにいません。 


けれども、届いています。 


あなたの想いは、心で、感じていますから。 




「大丈夫ですよ」 


口に出してみる。 


あなたがここにいなくたって、私は。 


「私は、アイドルですから」 


21 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:23:24.25 ID:wXzZV/Aw0 

「みんな、来てくれてありがとうっ!」 


客席から、わぁっと声が上がります。 


こんなにいっぱいのお客さんを相手に、ステージに一人。 


でも、こわくなんてありません。 


私を突き動かすのは、何よりも。 




「頑張って歌うので、みんな、もーっと笑顔になっていってくださいっ!!」 


さらに歓声が上がります。 


幾重にも重なって、エコーのように何度も何度も跳ね返って、響きあって。 


わたしのからだを、つきぬけてゆく。 


まるで、声に倒されてしまいそう。 




「それじゃあさっそく、一曲目!」 


でも、大丈夫。 


この声こそが、私の身体を、ぎゅっと、やさしく。 


包んで、支えて、たとえ倒れてしまっても、起き上がらせてくれるんですから。 


22 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:26:28.47 ID:wXzZV/Aw0 

「これで、最後の曲ですっ!」 


ライブも、もう終わり。 


だから、とびきりの歌をみんなにプレゼントします。 




プロデューサーさんは、とっても驚いていました。 


トレーナーさんは、少しびっくりしてから、それもありだって言ってくれました。 


私のイメージとは少しだけ違った、アップテンポで直情的な恋の歌。 


『ふふっ……私にだって、情熱はありますから!』 


思いのかぎりをぶつけるのもいいかな、って。 


これも私だって、思ってもらえるのかな? 


23 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:28:05.12 ID:wXzZV/Aw0 

思った通り、客席からはどよめきが生まれます。 


やっぱり私には、こういう曲は合っていないのかな? 


そんな疑問を吹き飛ばすかのように。 


私は歌います。 




情けないくらいに、声をからして。 


ギターやドラムの音に負けないほどに。 


みんなの声援にだって、街の音にだって、かき消されないほど強く。 


声を張り上げて、響かせて、かき鳴らして。 


離れていたって届くように、歌えるのなら。 




――見てくれていますか? 


聞いてくれていますか? 


今、ありったけの想いをのせて……みんなに。 


そしてあなたに、捧げます。 


24 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:29:46.55 ID:wXzZV/Aw0 

曲が終わり、静寂が会場に染み渡ります。 


ああ、やっぱりだったかな、と少しだけ頭によぎりました。 




誰かが、手を叩きました。 


それに合わせて、みんなが続きます。 


誰かが、声を上げて褒めてくれて。 


そこから一瞬にして湧き上がった大歓声。 


私の心に、すうっと入り込んで、なんともいえない不思議な気持ちで満たしていきます。 




「……ありがとう、ございますっ」 


こぼれ落ちる思いを、拭わずに。 


みんなに自然な笑顔を向けます。 


「えへへ……ありがとうございます!」 


さらに巻き起こる喜びの声。 


いつの間にか鳴り響いていた手拍子に、私は笑顔で答えます。 






「それじゃあ、これで本当に最後ですっ!」 


ゆっくりと響くギター。 


スローテンポの曲に合わせて、やさしく、歌を紡ぎます。 




色々なことが起こって、どうしようもなくなっても。 


時間は進み、地球は回る。どこまで行っても、続いていく。 


離れていたって、届く歌。 


誰のために歌ったのかは……私だけの、秘密です。 


25 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:35:34.74 ID:wXzZV/Aw0 

ぼんやりとした足取りで、私はトレーナーさんの車に乗り込みます。 


ライブの次の日ともあって、流石に激しいレッスンはしませんでした。 


でも、なんだが休んでいたくないような気がして、無理を言ってトレーナーさんに付き合ってもらいました。 


本当はオフの日なんですけどね。私も、トレーナーさんも。 




「昨日のライブ、とっても良かったですね!」 


トレーナーさんは車を運転しながら、ミラー越しにこちらに微笑みます。 


でも、夕日が差し込んでいて、トレーナーさんの顔はよく見えませんでした。 


「そんな、全然ですよ」 


謙遜しなくてもいいのに、とトレーナーさんは苦笑い。 


――いえ、私自身あまりいいものとは言えなかったかなって。 


確かに楽しかったですし、ファンのみんなは喜んでくれました。 


でも、やっぱり。 


みんなのために歌うべきだったのに。 


「――誰かのために歌う、それだけでいいんですよ」 


トレーナーさんは、ずっと前を見つめながら。 


「ちゃんと、藍子ちゃんの声を受け取ってくれる人は、いますから」 



26 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:37:14.51 ID:wXzZV/Aw0 

そう、ですね。 


ちゃんと、届いたかな? 


届いているよね。 




ふと思い出して、スマートフォンを取り出します。 


未送信のメールが、4通。 


それぞれに書いた日付を入れて、送信。 




送信できました、のメッセージを確認してから、新規作成のボタンをタップします。 


私もちゃんと、届けなきゃね。 


27 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:39:07.56 ID:wXzZV/Aw0 

―――――――――――――――――――― 


To: ――さん 
Sub: (no title) 



お久しぶりです。高森藍子です。 



私は元気にしていますよ。 



昨日なんて、一人でライブをやってみせたんですから。 




離れていたって、ずっと貴方の声が聞こえていたような気がして。 



だから、あれからの半年、私は頑張ってこれたんだなって、思います。 



私の声も届いていたのかな? 




でもやっぱり、貴方の声を直接聞きたいな。 



あなたの声が、私に勇気をくれるから。 



だから……いつか、会えませんか、なんて。 



お返事くださいね。 



ずっと、待っていますから。 



―――――――――――――――――――― 


28 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:40:24.70 ID:wXzZV/Aw0 

メールを送信しようとしたその時、トレーナーさんがブレーキをやさしく踏んだのに気付きました。 


「着いたよ、藍子ちゃん」 


ありがとうございます、とお礼を言って、送信せずにスマートフォンを鞄に押し込みます。 




車を降りて、誰かがすぐそこにいることに気付きます。 


ふと、そっちを向くと。 


「――あれっ、プロデューサーさん、肇ちゃん。どうしたんですか、事務所の前で」 


「あら、藍子ちゃん。レッスンお疲れ様です」 


見慣れた二人。私の今のプロデューサーさんと、同じユニットの藤原肇ちゃん。 


二人とも、今日はお仕事では? 


早く終わったのかな。でも、どうして事務所の前に立っているんだろう。 




ふと、二人の目線の先に誰かがいることに気付きます。 


誰だろう。 


なんだか、見覚えが―― 




「あ――」 


29 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:41:29.76 ID:wXzZV/Aw0 

気付いた時には、二人の目の前だということもなにもかも。 


「――さん……。――さん、ですよね……?」 


「藍子……?」 


すっかりと忘れて、彼に抱きついていました。 




……今となって考えると、とっても恥ずかしいです。 


すぐそこにプロデューサーさんも、肇ちゃんもいたのに。 


……そういえばこの前、お二人はとっても仲がいいんですね、と肇ちゃんにからかわれました。 


肇ちゃんとプロデューサーさんほどじゃないです、と反論すると……肇ちゃん、顔が真っ赤でした。かわいいなぁ。 


30 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:43:10.92 ID:wXzZV/Aw0 

「ただいま、藍子」 


「おかえりなさい、――さん」 




離れていたって届くように歌った私の気持ちは、あなたに伝わっていたんだって、わかりました。 


懐かしい感触。今まで頑張ったんだよという気持ち。会いたかった、素直な想い。 


何もかもが、胸の奥から、あふれて、溢れて。 


それでもいいんです。 


きれいな茜色の夕日が、私の涙を隠してくれるから。 


何もかもが溢れきって空っぽになった胸の奥は、これから、あなたとの思い出で満たされてゆくのだから。 


31 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:44:44.98 ID:wXzZV/Aw0 

ぎゅっと、少しだけ強く彼に抱きしめられて。 


彼の心臓の鼓動、息遣い、彼の今までの思いが。 


私の胸の奥に、すっと入り込んで、反響しあう。 


少しずつ、私の心のなかの空白を満たしてゆく。 




「ずっと、一緒ですよ。――さん」 


こんなに近くだからこそ、ちゃんと届くように。 


今、ありったけの、私の想いをのせて。 


32 : ◆.FkqD6/oh. 2013/10/07(月) 23:48:09.16 ID:wXzZV/Aw0 
以上で終わりです 

ありがとうございました

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/08(火) 00:51:18.44 ID:srtME0BPo 
乙乙! 
良かったです!

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/08(火) 07:30:14.88 ID:lxDxRs+Yo 
乙ですっ☆ 
今回も良かった……