2 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:43:20 ID:
8Qf
そんな彼女ではあるが、子供っぽいところもある。
スキを見せればダジャレをぶっ込み、軽くあしらえば傷心しましたと飲みに誘ってくる。
自由気ままとは彼女のためにあるのではないかと思うほど、オフの時はギャップが凄い。
現在はその子供っぽさが全面に出ているようで、揺れるお猪口を見つめながらニコニコしていた。
「私、綺麗って言ってもらったことはありますけど、一度も『かわいい』って言ってもらえてない気がするんです」
いきなり何をぶっこんでいるのだろうか。塩焼きしたホッケをつまんでいた箸が思わず止まる。
3 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:43:30 ID:
8Qf
「……楓さん?」
「するんです」
呆気にとられているとズイッと身を乗り出してくる。
ニコニコしたままなところを見るに、完全にからかいモードである。
「酔ってますね?」
「酔ってないです」
「酔ってる人は大体そう言うんです」
決まり文句を言いながら身を乗り出す楓さんをなんとかたしなめる。
口を尖らせてブーイングしてくるが、酔っぱらいには付き合っていられません。
4 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:43:39 ID:
8Qf
「というわけでほら、『かわいい』って言ってください」
「随分と強引に粘りますね……」
「そうです、強引なんです。今日の私はゴーイングマイウェイ……フフッ」
「……くだらないこと言ってないで、ほら。お冷でも飲んでください」
「口元にやけてますよ?」
「気のせいです」
いきなりだった上に酔いが回って笑いの沸点が低くなってる今、楓さんのちょっとしたギャグでも笑いそうになる。
目を逸して誤魔化すが、ニヤニヤされているところを見るに完全に手玉に取られている感がある。くそぅ。
5 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:43:49 ID:
8Qf
「ねぇ、プロデューサー?」
「なんですか?」
「『かわいい』って、言ってください?」
「……可愛いですよ、楓さん」
「ぶー。心がこもってないじゃないですかぁー」
……今のは本気で可愛かったが、なんか言ったら負けな気がするのでお口チャック。
というか、こんな綺麗な女性を捕まえて『かわいい』は失礼ではないだろうか。
確かに子供っぽいところがあるが、それは『かわいい』というより『しょうがない』とか『どうしようもない』という方が大きい。
そう思われてもなおふざけ続けるあたり、筋金入りだなぁとは思うが。
6 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:44:01 ID:
8Qf
「……というか、どうして急に?」
「んー……特に理由はないんです。ただ、ふと思いついたので」
また思いつきでこの人は……。
脱力する俺を見てクスクス笑っているこの飲ん兵衛をどうギャフンと言わせてやろうか。
「ふふ、それに……褒められて嬉しくない女性はいませんよ?」
「そういうものですかね」
「そういうものなんです」
残っていた熱燗をぐいっと煽る。
飲み込んだ際の喉を焼く辛味を楽しみ、しばし一息。
7 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:44:24 ID:
8Qf
「でも、貴方限定。ですからね?」
「……それは、どういう」
「その意味は、貴方がよく知ってると思いますよ?」
「……うぐ」
しまった、ギャフンと言わせるどころかこちらがギャフンと言いたい形勢に持ち込まれた……!
一息ついたと思ったらこれである。ニコニコしているのが非常に恨めしい。
素直にかわいいと言えば済むのだが、この余裕そうな笑顔を崩さないとなんか負けた気がする。
8 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:44:38 ID:
8Qf
「ほらほらー。かわいいって言ってください?」
「……そういう面倒くさい所、可愛いと思いますよ」
「むぅ。まだちょっと投げやりです」
「……そうやってむくれているところも可愛いですよ」
「……もう、そうじゃなくてですね。そんな流すようにじゃなくて――」
「……好きですよ、楓さん」
「そうそう、そういうふうに心を込め――、え?」
「お。その驚いた顔、可愛いですね」
ので、今までのお返しに本音を込めて、素面じゃまず言えないことを言ってみた。
するとまぁ効果覿面。やったね。明日覚えてたらまず後悔しそうな事口走ったけどそれはそれだ。
9 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:44:50 ID:
8Qf
「……すみません、プロデューサー」
「なんでしょう?」
「その、聞き取れなかったのでもう一度……」
「驚いた顔も可愛いですね」
「そっちじゃないです! もう……!」
ふふふ、形勢逆転。今日の後悔なんか明日の俺に任せとけ。
今はこの楓さんいじりを楽しむのだ……!
「そっち、ってどっちでしょう?」
「……わかってるくせに。……酷いですプロデューサー」
「拗ねないでください。可愛いですよ?」
「うー……!」
「ははは! 怒ってる楓さんも可愛いですよー!」
10 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:45:11 ID:
8Qf
顔を真赤にしてポカポカと肩を叩いてくる楓さんをからかうのは、なんというかすごく楽しい。
ただ、やりすぎると後が怖そうなのでここらへんで止め――
「……好きって、言ってください」
「…………はい?」
ようとして不意打ちを食らってしまった。
酔いのせいでろくに回らない思考が完全に停止し、理解が追いつかない。
11 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:45:25 ID:
8Qf
「好きって言ってくれないならこっちから言います」
「え、あの楓さん?」
「好きです、プロデューサー。貴方の目が、声が、心が。貴方の何もかもが大好きです」
先程までのふざけた雰囲気が一転する。とんだ特大級のカウンターがあったものだ。
ようやく理解が追いつくが、泳ぐ目は楓さんの潤んだ瞳やしっとり濡れた唇を追いかける。
「……ふふ、やっぱり貴方のそういう顔、可愛いと思います」
「楓さ」
12 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:45:39 ID:
8Qf
文句の一つでも言ってやろうかと思った矢先、言葉を放つはずだった口が塞がれる。
アルコールに混じった甘さと『楓さんの唇、やわらかいなぁ』なんて他人事のような思考が頭の中を支配して魅了していく。
ほんの一瞬なのに永遠のように感じられたその甘美な温もりは、余韻を残して冷めていく。
正常な思考すら奪われてもなお、どうしても目の前の女性から目を離せずに居た。
「……プロデューサーは、私の事好きですか?」
どうやら、『高垣楓』という女性は酒よりもたちの悪い酔い方をするらしい。
彼女の全てに酩酊して、魅了された今の俺に彼女に抗うすべはない。
ずるいなぁなんて思いながら、先程の冗談交じりではなく、心からの本心を彼女へ。
13 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:45:47 ID:
8Qf
「――えぇ。きれいな貴女も、かわいい貴女も。貴女の何もかもが大好きですよ」
酔った楓さんは強引でゴーイングマイウェイ。
そして、下手に刺激すると彼女の魅力に酔わされる。
いい教訓だ、覚えておこう。
14 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:45:55 ID:
8Qf
――でも、こんな気分のいい酔い方をするのなら、二日酔いもいいかもしれない。
15 :
◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/23(水)03:46:00 ID:
8Qf
おわり