高垣楓「そろそろ同棲、しましょうか」

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1 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:21:29.05 ID:jWGgUzWko 
P「っ、ごほっ、ごほっ、な、なに言って、ごほっ」 

楓「だ、大丈夫ですか?」 
2 

P「はい……んんっ」 

楓「お水、飲んでください」 

P「ありがとうございます…………ふぅ」 

楓「落ち着きました?」 

P「なんとか……それで、何の話でしたっけ」 

楓「二人で住むのですし、少し大きめの部屋を借りないといけませんよね」 

P「さっき聞いた時より何段階か話が進んでますね」

2 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:23:42.67 ID:jWGgUzWko 
楓「そうですか?でも、Pさんも広いお家の方がいいと思いません?」 

P「それはそうですけど……まずどうして同棲する話になったんですか」 

楓「さっきご自分で『お祝いも兼ねて、何かしてほしいことはありませんか』って言ってたじゃないですか。ですから、同棲しましょうって」 

P「確かに言いました、言いましたけど、ほら、他にもっといいものがあるかもしれないじゃないですか」 

楓「例えば?」 

P「た、例えば?えっと…………温泉旅行とか」 

楓「同棲してからでもできるじゃないですか」 

P「海!海行きましょう!」 

楓「はい、夏になったら一緒に行きましょう。同棲してから」 

P「……またこうやって飲みに行くとか」 

楓「同棲したら宅飲みし放題ですね」 

P「…………」 

楓「他に代案はありますか?」

3 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:24:40.53 ID:jWGgUzWko 
P「……そもそも、アイドルが男と同棲していたら問題になると思います」 

楓「そこはシンデレラガールパワーで、ぱぱっと」 

P「シンデレラガールパワー」 

楓「はい。具体的には桃華ちゃんや琴歌ちゃん、あと茄子さんの力を借ります」 

P「……盤石ですね」 

楓「そうでしょう?」 

P「…………付き合ってもいない男女が一つ屋根の下で暮らすのはいかがなものかと」 

楓「なら、今から付き合いましょうか」 

P「えっ」 

楓「私はPさんのことが好きですけど、大好きですけど、Pさんは私のこと、好きですか?」

4 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:25:53.70 ID:jWGgUzWko 
P「…………」 

楓「…………」 

P「……えっと、俺も好きですよ。ア」 

楓「もしアイドルとしてなんて言ったら、メニューにあるお酒端から端まで頼んじゃいますから」 

P「………………」 

楓「いいんですか?いっぱいお酒来ちゃいますよ。一杯じゃなくて、いっぱい」 

P「……………」 

楓「…………Pさん?」 

P「……少し、時間をもらえますか」 

楓「分かりました。では、じゅーう、きゅーう」 

P「こういう時って大体日を改めませんか?」 

楓「いやです。ここで決めてください」 

P「そ、そんなこと言ったって……!」 

楓「……好きでないならはっきりと、きっぱりと、そう言ってください。でも、もし、もしそうでないのなら────」

5 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:27:50.82 ID:jWGgUzWko 
そう言いながら、楓さんの顔が近づいてくる。 
心なしか、いつもより赤味を帯びているように思えた。 

それがアルコールのせいなのか、はたまた別の理由からか。 
もはやそれを考えるほどの余裕は残されていない。 

あたふたと落ち着かない自分をよそに、彼女はそのまま身を乗り出してくる。 


食器がぶつかる音。机が軋む音。衣擦れ。お互いの吐息。 
店内は騒がしいはずなのに、聞こえてくるのはそんな音だけだった。 

「個室で良かった」なんて場違いなことを考えていると、彼女が言葉を続けていく。 



「『好き』と、そう自分の口で伝えてくれませんか?」 



決して近くはないのに、その呟きは耳元で囁かれたみたいに頭の中をかき回した。

6 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:29:17.60 ID:jWGgUzWko 
どうする。どう返す。このまま同棲するしかないのか。 
いや待てお前はプロデューサーだぞ。断るべきだ。 
でもこんな機会もう来ないかもしれないんだぞよく考えろ。 


彼女の綺麗な瞳に見惚れながら、思考があらぬ方向へ加速していく。 



「Pさん」 



自分を呼ぶ声が聞こえる。目の前の二色がこちらにおいでと誘う。 
このままでいたら吸いこまれそうだったから、意を決して口を開いた。 



「……す、す」 

「す?」 

「すみませんお勘定お願いします!!」 

「…………」 

「…………」 

「……Pさん持ちですからね」 

「はい……」

7 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:30:07.69 ID:jWGgUzWko 
楓「それでは、乾杯っ」 

P「乾杯」 

楓「んっ……はぁ……やっぱりお酒は美味しいですね」 

P「楓さんっていつも美味しそうに飲みますよね」 

楓「美味しいものを微妙な顔で味わっていたら失礼ですから。ふふっ」 

P「はは、違いないです」 

楓「さて、一週間ぶりの飲みですけど、何かPさんから聞かなければいけないことがあったと思うんですよね」 

P「…………」 

楓「…………じー」 

P「…………えっと」 

楓「ふふ、すみません。急かすつもりはないんです。……先にお酒、飲んじゃいましょうか」 

P「……そう、ですね」 

楓「おつまみも頼みましょう。Pさんはなにがいいですか?」 

P「え、あ、はい。何にしましょうか」 

楓「夜は楽しまないと、ですから。…………ふふっ」

8 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:31:16.53 ID:jWGgUzWko 
気が付けば、自宅の寝室で微睡んでいた。 

横にならず、ベッドの側面に背中を預けていたのを不思議に思い、振り返って寝床の主を確認する。 
予想はしていたが、そこではよく見知った女性がすやすやと寝息を立てていた。 

それはもう幸せそうに眠っている高垣楓さんを一瞥。 
ここまで至った経緯を思い出していく。 


おぼろげな記憶をたぐり寄せると、どうやら酔い潰れた彼女をここまで連れてきたということで間違いないようだ。 
間違いが起きていないことも確かだと信じたい。 

しかし、いつものように飲んでいたはずなのに楓さんが先に潰れたのはどうしてだろうか。 
いくら考えても、寝起きでぼんやりとした頭では結論を出せない。

9 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:32:44.12 ID:jWGgUzWko 



「というか、まだ返事をしてないのか俺は……」 



一週間、仕事だけに集中して逃げ続けた結果がこれだ。 
いっそこのままなかったことにしてしまおうか。 
自分の職務に忠実であるならそれが望ましいはずなのに、彼女の曇った顔を想像するだけで胸が締め付けられた。 


時刻は夜中の三時。 
自分が変な気を起こす前にリビングのソファーに退避しよう。 
そう思い、おそるおそる立ち上がる。床の軋む音がいつもより耳につく。 


部屋を出る前にもう一度だけ、楓さんを見た。 
寝ている様はさながら眠り姫のようだ。実際はシンデレラだけれど。 

目元にかかっていた前髪を分ける。 
そういえば、こんなまじまじと寝顔を見るのは初めてじゃないだろうか。 
たとえ意識がなくとも、その端正な容姿に変わりはない。 

髪が隠していた目元が現れる。 
閉じられた瞼。その奥。 
今は見えない、左右で色の違う瞳を宝石みたいだと思ったのはいつだっただろうか。

10 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:34:17.07 ID:jWGgUzWko 
自己紹介が苦手だと、そう言っていた。 

初めて飲みに行ったとき、思っていたよりお茶目であることを知った。 

旅館の部屋でひとり酒をしていたら、日本酒片手に突撃してきた。 

屋形船で新年の始まりを祝い、共にこれからも楽しんでいけることを願った。 

「ヒミツですよ」とチョコを渡してくれた。 


いくつもの仕事を共にして、一緒に輝く舞台を目指そうと、そう言ってくれた。 


様々な情景、その中に必ずあった笑顔が頭の中に浮かんでは消える。 



思いが、想いが、溢れて零れる。 


ああ、やっぱりそうだ。 


俺は貴女のことが。 




「好き、ですよ」

11 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:35:16.07 ID:jWGgUzWko 










「奇遇ですね。私もPさんのこと、好きですよ」 










12 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:36:15.85 ID:jWGgUzWko 


突然ぐいと引っ張られて、たまらずベッドに倒れ込んだ。 
横並びになり、目と目が逢う。あの宝石のような瞳がこちらを見据えている。 



「……起きてたんですか」 

「はい。でも、そんなのは些細なことです」 



それより、と彼女は顔を近づける。 

まだ酔いが残っているのか、それとも非現実的な状況に頭が追いついていないのか。 
まるで、映画館のスクリーンでも見ているような気分だ。

13 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:37:35.77 ID:jWGgUzWko 


「これで晴れて両想いですね」 

「そ、そうなりますね」 

「同棲しちゃいましょうか」 

「しません」 

「好き合ってるのに?」 

「……たとえ好き合ってても、アイドルとプロデューサーですから」 

「けち」 

「けちじゃないです」 



むくれ顔の彼女が指を絡ませてくる。 
その手はやけに熱を帯びていて、夢のようにふわふわとしている今の中では唯一確かなものだった。

14 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:38:23.19 ID:jWGgUzWko 


「そもそも、どうしてそこまで同棲にこだわるんですか」 

「楽しそうじゃないですか、同棲」 

「そうですか?巷では同棲したカップルは別れるなんて話も聞きますけど」 

「そうみたいですね。でも、私とPさんならなんとかなるかなって思うんです」 

「そんな適当な……」 

「ふふっ、こればかりは実際にしてみないと分かりませんから……」 

「……しませんよ」 


返事がない代わりに、余裕たっぷりの笑みが返ってきた。 
そして繋がれた手を離さないまま、「どうですか」と彼女のセールストークが始まる。

15 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:39:13.84 ID:jWGgUzWko 


「肌が触れあうくらいの距離で眠りについて、朝になったらどちらともなく目覚める生活は」 


「私があなたのネクタイを締め、共に出勤する毎日は」 


「朝食を一緒に作り、その日の予定を話し合うような休日は」 


「共に語らいながらお酒を飲みましょう。美味しいものを食べに行きましょう」 


「Pさんが言っていたみたいに、温泉旅行や海に行くのもいいかもしれません」 


「そうやって、色々な思い出を作りましょう」 


「ですから、こんな風に手を取り合って、一緒に暮らしてみませんか?」

16 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:39:56.44 ID:jWGgUzWko 
息が詰まる。心臓の鼓動がうるさくて仕方がない。 
今、彼女は何と言っていただろう。内容を反芻しても答えは変わらない。 

だって、今のはまるで。 


「……プロポーズみたいですね」 

「同棲のお誘い、ですよ?」 

「……そういうことにしておきます。というか、俺たち付き合ってないじゃないですか」 

「あら、私たち付き合ってないんですか?せっかく好き合ってるのに」 

「さっきと同じです。たとえ好き合ってても、アイドルとプロデューサーですから。まだ付き合えませんし同棲もしません」 

「まだ?」 

「…………そうですまだです」

17 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:41:09.01 ID:jWGgUzWko 

「ふふっ、わかりました。まずは目指せトップアイドル、ですからね」 

「そうですよ。シンデレラガールにも選ばれたんですから、もうすぐです」 

「はい。……それなら、まだだめですね」 

「……ごめんなさい。でも今は、今だけは……」 

「……大丈夫ですよ、Pさん」 


自分の頬に、彼女の手が重なる。 
逸らしていた目線が合わさる。 


「確かに、今すぐPさんと一緒になれないのはとても寂しいです」 

「でも、あなたが見つけて、二人で育んだ夢を諦めるなんてできませんから」

18 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:41:48.21 ID:jWGgUzWko 

だから、と優しく微笑みながら、彼女は言う。 


「今はまだ、このまま。アイドルとプロデューサーのままで」 

「……ありがとうございます」 

「いえいえ。これからもよろしくお願いしますね?」 

「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いします」 

「……うふふ」 

「……ふふ」 



今更かしこまるのが面白くて、二人して顔をほころばせる。

19 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:42:44.62 ID:jWGgUzWko 

「次こそは良いお返事、期待してますから」 

「……楓さんがトップアイドルになるまでお預けですけどね」 

「はい。でも、こう何度もお断りされるとしかえししたくなっちゃいますね」 

「な、何する気ですか」 

「ふふ、そんなに身構えないでください。……あの、してほしいこと、今言ってもいいですか?」 

「え?……あ、そういえば同棲の話でうやむやになってましたね。いいですけど……」 

「ありがとうございます。では、少しの間動かないでくださいね」

20 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:43:31.05 ID:jWGgUzWko 

目は開けていてもいいですよ、といたずらっぽく付け加えて、楓さんがこちらに近づいてくる。 
反射的に後ろへ退こうとするのを、いつの間にか首に回された腕が引き止めた。 


息が止まる。ただ唇が触れあっているだけなのに、頭が働かなくなる。 


離れた後、こちらの呆然とした顔を見て楽しそうにくすくす笑う様は、いたずらが成功した子供のようだった。 



「もう口付けちゃいましたから。私の、ですよ?」 



そんなことをいう楓さんにつられて頬が緩む。 
そういえば、あんなに近くで彼女の瞳を見るのは初めてだった。

21 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:44:54.13 ID:jWGgUzWko 







P「楓さん、お疲れさまでした」 

楓「Pさんもお疲れさまでした」 

P「掛け値なしに、今までで一番のライブでしたよ」 

楓「ありがとうございます。私も最後を飾るのに相応しいステージだったと思います。……今まで、ありがとうございました」 

P「こちらこそ。ここまでついてきてくれて、ありがとうございました」 

楓「ふふっ。……そろそろ同棲、しますか?」 

P「…………それより、見せたいものがあります」 

楓「え?…………それって」 

P「楓さんにはいつもしてやられてばかりでしたからね。いつかのお誘いの返事を」 

楓「…………」 

P「……あれ、もっと驚くかと思ってたんですが。ってどうして無言で取るんですか。……いや今左手薬指に指輪はまずいですってそのまま外に出ないでください待って!!」

22 : ◆ULqTtBUL.k 2017/07/23(日) 02:46:45.93 ID:jWGgUzWko 


おしまい。 




楓さんと幸せに暮らしたいです。よろしくお願いします